「KnuckleFighter-X」、略称は「KFX」。長い歴史を持ち(初版公開は1996年)、同人格ゲー界でも屈指の特殊性を備え、正直語るべき部分が多すぎてどこから話せばよいのか悩むタイトルである。
まずは、何も手を加えない『素』の状態について。
いわゆるストリートファイターや餓狼伝説系のオーソドックスな実写格闘ゲームである。実写、という言葉に反応する向きもおられるだろうが、個人的には実写格闘特有の珍妙な気配がさほど感じられなかった。あくまで個人的には、だが。思うに変に気負って道着を着たりコスプレしたりせずに、ごく普通の格好で戦っていたことがプラスに働いたのではないだろうか。どこかのサイトで『リアリティを無くしたのがかえってよかった』と評されていたが、まさに実写格闘や3D格闘が陥りがちな『不気味の谷』を図らずも(?)避けたわけである。(不気味の谷:現実と虚構の狭間に存在するという最悪の陥穽。三次元(実写取り込み含む)が二次元(ポリゴン含む)に、二次元が三次元に近付けば近付くほど微細な違和感が目について正視に耐えなくなるのはこれに落ちるからだとされている)。その辺の学生さんっぽい人たちが空手をベースとした格闘術や草薙流古武術や八極拳を使っているのはおかしいを通り越して逆に格好良い。
システムは(今見れば)至ってシンプルなものばかりである。「弱パンチ」、「強パンチ」、「弱キック」、「強キック」の4ボタンを基本とし、そこにいくつかのサブシステムが絡む形になる。おおむねカプコン系をベースにしたものであるが、どの格ゲーをメインにやっている人でも違和感なく把握できるだろう。昨今の複雑怪奇なシステムについていけない人にもお勧めできる。先行入力受付時間が長めなのと一定時間ガード不能になる変則ガードクラッシュが最大の特徴だろうか。
デフォルト搭載システム
▽キャンセル
説明の必要なし。デフォキャラでは恐ろしいことにほぼ全ての通常技を必殺技やチョーすごい技(逆転技とも、超必殺技)でキャンセルできる。
▽ガードキャンセル
こちらも説明不要。特別な条件がなく受付時間も結構長いため使いやすい。
▽ガードしすぎて腕がしびれてきた状態
変則的なガードクラッシュ。『「ガードしすぎて腕がしびれてきた」ゲージ』というものが体力バーの右下にあり、ガードすると溜まっていく。時間経過で減少するが、いっぱいまで溜まると一定時間ガードが出来なくなる。ガード以外の行動は普通に出来、溜まった瞬間にペナルティの類があったりするわけでもないが、そのぶん長時間持続する。発生が遅いが攻撃範囲の広い技を持っている相手だと致命傷にもなりかねない。
▽投げ技
全て打撃投げのみ。攻撃した相手を自由に動かせない(標準で用意されたダメージモーションしか使えない)ので投げがあまり発達しなかった。
▽チョーすごい技(逆転技とも)
超必殺技。攻撃を当てたり受けたりすることでライフバー左下のゲージが増え、ストックがあるときにコマンドを入力すれば出せる(ストックは2本まで)。デフォルトキャラは攻撃力がストII並に高く、おまけにキャンセルがかかりやすいので洒落にならない体力を持っていく。
キャラもさすがに古いゲームなのでアニメーションパターンは少ないが、限られた性能の中で『らしさ』を出しており、理不尽な判定などもそれほどなく、十分対人戦に耐えるバランスである。有名タイトルのキャラを丸コピーしました的なキャラも多いが、実写でやられるとかえって楽しかったりもする。また、コピーキャラはゲームに慣れるためにも役立つ。リュウっぽい『RYOU』、京っぽい『UKYO』、晶っぽい『ARAKI』などを使っているうちにKFXの癖もわかってくるだろう。
ただ、CPUが若干弱めなのは格ゲー慣れした人には物足りないかもしれない。また、やはりというか何というか一部キャラが強すぎたりするのも問題だろう(例・RYOUの『真・青龍拳』:連続技に組み込めて体力ゲージの半分近いダメージ、しかも追撃可能)。
このままでも、欠点もあるが総じてかなりお奨めできるタイトルである。人によっては『作られた時代を考えると』という枕詞がついてしまうかもしれないが。
このままでも、と書いたが、KFX最大の特長はその高い拡張性である。キャラ選択画面を見れば予想がつくだろうが、デフォルトキャラクター9体に加えて最大で60体、有志の作成した拡張エンジンなら理論上無限にキャラを追加できるものも存在する。追加すると言っても制作元がキャラを配布しているわけではない。有志が制作したキャラをダウンロードしてくるか、自分で作るのだ。
実際のところ、この『キャラの作成&追加が可能』というシステムこそが、今日までKFXが生き残っている理由であるといっても過言ではない。格ゲーマー永遠の夢(だと勝手に思っている)『自分で格ゲーを作る』が、フリーソフトで可能になったのである。しかも作成のためのプログラミングが非常に簡単で、画像をゲーム用にコンバートする作業と当たり判定等を付ける作業に制作元の配布しているツールを使う以外はペイントとメモ帳で十分可能だったという手軽さも夢の実現に拍車をかけた。
無論制限もきつかったが、その方が逆に作りやすかった面もあり一概にマイナスとは言えない。また、システムの隙を突くような新技術やバグ技も多く発見され、作成自体が一つのゲームのような雰囲気を持っていた。
様々なホームページなどで公開されたキャラ達はまさに十人十色。竜虎乱舞と真空波動拳の修得率が高かったりもするけど。
当然素人が独自基準で作ったキャラを導入する時点で対戦バランスは崩壊するのだが、性質上対CPU戦がメインになることもあり、お祭り系作品として十分に楽しめる。また、きちんとバランスを考えて作られたキャラも一定数存在し、それらを使っての対人戦はなかなかに盛り上がる。同人ゲームならではの奔放な発想やどこかで見た技の数々は見ているだけでも面白いものも多く、接待用にも使えるだろう。ちなみに作られたキャラクター達は多くがドット絵キャラというか手書きキャラであったが、デフォルトキャラが実写であったことも手伝ってか実写キャラもかなり多い。たぶん現在までに作られたKFX用実写キャラの数はKFX以外の格闘ゲーム全てに存在する実写キャラの数よりも多いのではないかと思う。
無論、作られたキャラはオリジナルばかりではない。既存の漫画やアニメを元にした手書きキャラや、ゲームから画像・効果音を取り出して作った移植キャラも多い。そもそも、そっちが主だと認識しているプレイヤーも少なくないのが現状である。
かつては作成に関する制限が非常に厳しく、移植といってもそれこそゲームボーイの熱闘シリーズクラスまでダウングレードされたものしかできなかったが、現在ではシステム的な部分(ヒットストップや入力受付時間など)を除けばほぼ原作と見分けがつかないレベルのキャラも多く作られている(ヒットストップそのものは設定が可能)。とはいえ昔の超無理矢理な移植キャラもそれはそれで味があるのだが。使い慣れたキャラで破天荒なオリジナルキャラ達に戦いを挑むのも一興。
元ネタありの手書きキャラや格闘ゲーム以外から移植(?)されたキャラも、原作への愛が詰まった良キャラが多い。たまに、特に格ゲー的要素のない作品のキャラまで格ゲー化してしまう愛が熱暴走的なキャラもいるが、それでも案外原作のエッセンスが格ゲーのフォーマットに落とし込まれていて面白かったりする。
原作に思い入れがあるならもちろん、知らなくてもキャラ性能自体は気に入る→原作に興味が沸く なんてこともありえたり、接待プレイ時のギャラリー受けが非常に良い場合が多いのも嬉しいところ。
『何でもアリだろ?』が合い言葉になるほどのフリーダムっぷりを楽しめるかどうかで好みが非常に大きく分かれるタイトルだが、はまれば一生もの。バランス崩壊が前提みたいなゲームなのでさすがに対人戦を徹底的に極めたいというタイプの人には合わないだろうが、『どうせフリーソフトなんだし』と軽い気持ちで手を出してみるのも一興かと。
なお、今から始める場合は殆どの制限が取り払われ、技術次第で商用レベルのキャラも作れる&動かせるようになった拡張エンジン『KnuckleFighter-Alpha』(JAVAベース)か『XPlus』(DirectXベース)の導入をお奨めする。
最後に、KFXを使う場合の注意点を3つほど挙げておく。
▽1,画面の色数設定を『ハイカラー(16bit)』にしないと起動してくれない
デスクトップ上で右クリック→プロパティを開く→『画面』タブをクリックとすれば設定変更できるはずである。
▽2,ジョイスティックに対応しているがキーコンフィグがない
ものによっては致命傷になりかねない。解決策は(Xの時点では)無いので、手持ちのゲームパッドできちんと操作できることを祈るしかない。
▽3,差分ファイルもダウンロードしておく
いくつかのバグフィクスがされているほか、エントリー人数が30から60に増えているので、こちらの方が使いやすい。
これらはAや+で修正されているので、今から導入する場合はそちらを使った方がいいだろう。ただ、デフォルトキャラクターを入手するためにXもダウンロードしておいた方が良いかもしれない。
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